ここで紹介しているノウハウは「ドロームを十分楽しむためにはこのくらいは必要」程度のレベルです。各カテゴリーでトップを争うためのノウハウではないのであらかじめご了承下さい。
なお筆者はドロームで4WD車のクラスに出場したことがありませんので、このページのノウハウは複数の出場選手に協力していただきました。
ナスカーライトクラスは電動RCカーでもっとも人気の高い4WDツーリングカーをベースにしたシャシーで戦われるクラスです。
もともとは別のボディをワンメイクで使用する『アイロッククラス』として開催されておりましたが、ストックカーボディを使いたいという要望が多かったために、HPI社製の3種類のストックカーボディを使用するクラスとして『ナスカーライトクラス』と改名されました。
4WDのツーリングカーは人気カテゴリーだけにシャシーも各社からいろいろ出ており、その中からドロームに向いたシャシーを探して投入してくる選手・とりあえず手持ちのシャシーを改造して出てくる選手・こだわりを持って自分の好きなシャシーで挑む選手など、選択基準も多種多様で、結果としてドロームでもっとも多様なシャシーを見ることができるクラスになっています。
シャフトドライブとベルトドライブのどちらが有利か、どの参加者も考えるところですが、今のところモーターの回転方向の関係で殆どのベルトマシンがバッテリーを右側に置くことや、全開走行を長く続けるドロームではフルスロットル持続中のベルトのバタつきなどからシャフトドライブが有利のようです。ただベルトマシンでもそのあたりの課題をクリアできればそれほど差はないかと思います。
↑タミヤTA04ベース
↑バラクーダベース
←カワダ アルシオンベース
上は実際にドロームで使用されているシャシーのごく一部です。それぞれ画像をクリックすると別ウィンドウに大きな画像が表示されます。
多くの選手がメインシャシーを自作したり他社シャシーの部品を流用したりしています。『普段使いのツーリングを改造して、ドローム終わったら元に戻すつもりだったけど、部品ほとんど替えちゃったからこれはもうドローム専用だね』というのが、たいていの選手の言葉。
ドローム専用車両として考えた場合のシャシーの選択基準は、下記の通り。
- 高い駆動効率
ドロームで問題になるのはとにかく駆動系の軽さです。
- 高い二次減速比
減速比は車両全体で1.8〜2.2がもっともよいようです。二次減速比が低いとこんな超ハイギアードは組めませんので、できるだけ高い二次減速比を持つシャシーがいいのです。
- 高い駆動系の剛性
ドロームでは走行中のGがすさまじいので、剛性のない車はバンクで失速するようです。
もっとも改造の手間がかからないシャーシは「ヨコモ MR4TC-SD」でしょう。2次減速比が2.35:1とシャフトドライブの中では低く、モーター取り付け位置も高くピニオン装着が容易だからです。(LCGは低いので注意)また「タミヤ TBエボリューション4(同2.294:1)」も楽な部類に入ります。
しかし前述したように、これらの条件に合致していなくても、こだわりを持って自分の好きなシャシーで出場する選手も少なくありません。
ドローム仕様といっても特に「絶対にこう改造しなければいけない」というようなことはありません。
ただ走る速度が速度なので、いつも以上に基本にそって正確に、ガタを少なく、サス類の動きをスムーズに組み立てる必要があるだけです。
特にツーリングカーを使用するナスカーライトクラスでは、2.0 前後という超ハイギアードを獲得するための超大径ピニオンギアの製作が必須となっています。これについては、『超大径ピニオンの製作』でご紹介します。
その他のポイントを下記にまとめておきます。
- 駆動系の組み立て
駆動系の軽さが組み立てる上での最大のポイントになります。駆動系の組み立て精度には特に気を遣う必要があります。
- タイヤとインナーの選択
インナーはタミヤモールドが一番カチカチでおすすめです。
タイヤの銘柄は多分どこのものでも大差ないでしょう。HPIのPROコンパウンドを使用しました。
なおタイヤはタイヤバランスを取るのが不可欠です。
これをやるのとやらないのとで「最後のひと伸びが違う」とすら言われています。
- デフの調整
普通です。真っ直ぐ走るだけだからといって締め込んではいけません。ただし滑り防止に少し締め気味にしている人が多いようです。
- 車高の調整
かなり高めにセッティングします。
特殊な舗装を痛めないように、シャシーやボディが路面と干渉するとその場で走行停止を命じられますし、下げてもあまりいいことはありません。
前後とも5mm以上というのがレギュレーションですが、筆者は8mmくらいの高さにしています。
- ロールセンターの調整
ロールセンターが調整できるシャシーでは、フロント側を高く、リア側を低く設定します。
コーナリング中の失速を防ぐのが狙いです。
- ダンパーオイルとスプリング
基本的にはハイスピードならではの固めのセッティングとなりますが、これも、各個人の考え方と好みによって、数通りの流れがあるようです。
1、とにかく硬く・・・リジットとまでは言いませんが、とにかく硬いばね、硬いオイルで、足の動きを規制するものです。
2、バネは固めですがオイルはやわらかく・・・細かいバンプ対策のためか、とにかくよく動く足、パツパツのスコスコといった感じの足です。
3、ある程度固めのバネに、固めのオイル・・・2とは反対にじっくりとストロークするような足回りです。
サスペンションの調整に関しては、できれば長い直線を取れる場所で試走して決めたいところです。この辺りは、『セッティングとテスト走行』の項で筆者にわかる範囲で触れたいと思います。
複数段の減速を行うツーリングカーを使用するナスカーライトクラスですが、ハイバンクオーバルでの高速走行のために駆動系全体での減速比は1.8〜2.2あたりに設定しなければなりません。
その為に必要な超大径ピニオンの製作法をご紹介します。
忘れもしません。あれは、2000年のドロームでのこと。
一日目が終わってチームメートと宿の部屋で二日目に備えてマシンの整備をしている時、ナスカーライト(当時のアイロック)クラスに参加していた同室の二人から、信じられない声が聞こえてきました。
「58T!? そんな小さいピニオン、使い物にならん!」
(おいおい、58Tは市販で最大のピニオンギアだよ。それ以上大きいのって、どうすんだよ)
当時の私は思ったものでした。
左はカワダ・アルシオンベースのマシンです。
このマシンでは二次減速側のセンタープーリーの大径化(画像には写っていません)のおかげで、かろうじて一時側でも減速を行っています。
このピニオンギアにご注目下さい。
ナスカーライトクラスでは『R/C用として市販されているギア/プーリーのみ使用可能』と規定されているため、ピニオンギアにスパーギアを打ち込んで使用しています。
ABCホビーからカレラ4用として発売されている80Tから84Tのスパーギアを、ピニオンギアとして使用しています。モーター外径とピニオンギア(?)の外径がかなり近いので、シャシーによってはギアとシャシーが干渉するのを防ぐためにシャシーを切り抜く必要があります。また、レギュレーションでシャシー下面への突起物が厳しく禁止されているために、ギアがシャシー下面に飛び出すようではいけません。
左はバラクーダベースのマシンです。
バラクーダは二次減速比が低いため、一次側は増速することになります。左画像でもはっきりとピニオンギアよりもスパーギアが小さいのが確認できます。
ピニオンギアはすでにモーターの外径よりも大きくなり、ギアがシャシー下面から突出するのを防ぐために、モーターをシャシーから持ち上げてマウントするモーターマウントをオーダーメイドで製作してあります。
またこのマシンは、市販のスパーギアをピニオンギアとして使用するためのブラケットもオーダーメイドで製作しています。ギア自体はR/C用として市販されている物なのでこれもOKです。
お手軽に超大径ピニオンギアを製作するには、右の画像が参考になるでしょう。
48ピッチ17Tのピニオンギアを用意し、バイスを使って市販のスパーギアのセンター穴に圧入しています。製作後、モーターに装着してから回しさせ、センターが狂っていないか確認して下さい。
48ピッチのピニオンは、センターが狂いにくいようにあらかじめ圧入する側の面を取っておくといいでしょう。左画像下のように、モーターに取り付けて空回しさせてヤスリやペーパーを押し当てればきれいで正確に面取りできます。
なお作例では、ABCホビー製カレラ4用の84Tスパーギアを使用しています。
市販の26mm幅ゴムタイヤ及びインナー、HPIのストックカーホイルを使用すること、という規定からある程度選択肢が狭くなっています。基本的にはインナーが固め、なるべくインナーとタイヤ内側の隙間を少なくする、というのがポイントになるかと思います。
・HPIストックカーホイル
けっこう変形していて円がきれいに出ていない場合があります。できれば少し余分に購入して接着する前にセッターなどで回してみると良いでしょう。黒ホイルの場合は内側に白い染みのような部分が無い固体が(最近は少ないので割と安心です)おススメです。
・タイヤ
ナロータイヤの製品が少なくなってきているので、現在入手可能なものであれば
「HPI TQベルテッドXラジアル26mm」
「HPI ベルテッドXラジアル26mm」
「タミヤ ファイバーモールドB」(基本B、寒ければAだと思います)
あたりが定番です。最近はあまり見かけませんが、
「HPI レーシングスリックベルテッド26mm」
「HPI TQベルテッドスリック26mm」
「HPI プロベルテッドスリック26mm」
なども良好なグリップです。
ラジアルとスリックでは大きい差はないように思えます。ラジアルのほうが肉厚でインナーとの隙間が少なくなるので、後述のインナーによってはラジアルのほうがおススメなケースがあります。ドロームではコンパウンドの差以上に面圧の差が大きく影響するように思います。ただし、高面圧なセッティングはダウンフォースが落ちる減速時、またはスタートの瞬間などで不安定になります。
極端な話、タミヤのインナー無しの400円のタイヤでも問題なく走ることもあります。
ただ傾向として、ある程度ハイグリップのタイヤの方が、コントロール性は良いようです。しかしハイグリップタイヤは同時に走行抵抗にもなりかねませんので、数種類持っていくほうが良いようです。
また、前後のコンパウンドを変えてバランス調整を取られている方もいるようですので、そういう方法もありのようです。
・インナー
こちらもナロータイヤの減少に伴い、選択肢が少なくなっています。
「HPI ナローモールドインナーハード」
「タミヤ ナローモールドインナーハード(赤)」
などがあります。どれもグリップは良いです。店頭在庫などで
「タミヤ ツーリングカー用モールドインナー(黒)(生産終了)」
が入手できればそれが良いでしょう。
ある程度、固めのインナーの下にグラステープを数回巻いて張りを調整するのも一つの方法ですが、サスセッティングの絡みもありますので、足回りを決めてからの調整と思ってください。
・タイヤの接着
ドロームでは通常の走行時に比べて大きな横方向の力がかかり、気をつけないと簡単にはがれてしまうので接着は入念に行う必要があります。
タイヤを接着前にお湯で煮込み、油を落とすことでかなりはがれにくくなります。
(臭いが鍋に移るので料理用の鍋を使うと家族に怒られるでしょう)
・バランス取り
HPI製 シボレーモンテカルロ、フォードトーラス、HPIストックカーの3択です。
モンテカルロがやや安定傾向で、トーラス、ストックカーはややシビアなようです。ただ大きい差はないようなので、好みで選んでも問題ないかと思います。
ハイバンクオーバルコースでの超高速走行では強い縦Gがかかります。
HPIボディはサイド部分が薄いのでポリカ板+ステフナー+シューグーメッシュなどで補強、フロント部分もたわまないようにウレタンバンパーなどで支えられるようにしておくと良いでしょう。
Gでボディがたわんでしまうと空力的に不安定になることも考えられるので、ボディの固定はしっかりと行うことが絶対条件です。
車体中央、ちょうどボディの運転席の前あたりに五本目のボディマウントを立てたり、シャシーから横に張り出してボディの側面とマジックテープで固定するボディステフナーを装着しているシャシーもあります。
サイドボディマウントも有効ですが、ボディポストの出っ張りは最小限にして空気抵抗を減らすことが見た目的にも転倒時の路面保護にも有効です。
ボディはバンク上でダウンフォースを受けた時に路面と干渉しない範囲で、できるだけ低くマウントして空気抵抗を減らします。
リアスポイラーに関しては付属リップスポイラーしか選べないことから、救済レギュレーションとしてポリカ板でリップスポイラーを延長することが認められています。トランク付け根から40mmですが、30mm程度でかなり安定性がよくなるので少し延長しておくと良いかと思います。