セッティングを説明するに当たって、いくつか専門用語を覚える必要があります。
ここでは最低限の基礎知識をご紹介します。
シャシーの3軸
シャシーの動きについては、ロール・ピッチ・ヨーという3方向に分けます。
(「ヨー」という言葉はラジコンではあまり使われないようです。また、「ピッチ」はギア歯の種類と区別するため「ピッチング」と呼ぶことが多いようです)
図を見れば分かるように、ロールは「左右方向」ピッチングは「前後方向」ヨーは「回頭方向」の意味です。
「ロールが大きい」と言うと、「コーナリング時に遠心力による車体の横方向の傾きが大きい」という意味になります。
また「ロール剛性」「ピッチング剛性」という場合は、下図のようにシャシーそのものの捻れやたわみに対するシャシーの強さの意味です。
もう一つ、まれにですが「〜モーメント」という言葉も使われます。
これは、モーターやバッテリーと言った比較的重い部品が、車体のどこにあるかで決まってきます。
車体の重心位置から遠いところにこれらが配置されていると、各モーメントが大きくなって、「回転し始めにくいけれども回りだしたら止まりにくい」という性質になります。
まっすぐな棒を振るときと、ハンマーを振るときの差を考えていただければ、何となく分かるでしょうか? 当然、ハンマーの方がモーメントが大きいのです。
一番わかりやすいのはヨーモーメントですので、それで具体的に例を挙げてみましょう。
タミヤのTA03Fというシャシーはフロント車軸より前にモーターがありますので、非常にヨーモーメントが大きくなっています。
このため同車は基本的に「直進安定性が高く、曲がりはじめが穏やかだけども、立ち上がり時に舵が残りやすい」性質を持っています。
(実際にはサスペンションのセッティングやタイヤの選択でかなり補正できる物ですが……)
アライメント
セッティングの話にはいる前に、基礎理論その一としてホイルアライメントとサスペンションジオメトリの話をします。
ホイルアライメントとは、地面と車体に対して四つのタイヤがどのような角度で設置しているか。ということです。
またサスペンションジオメトリとは、サスペンションが動いたときにどのようにホイルアライメントが変化するか、を決める物です。
これを理解しておくとセッティングを進める上で非常に便利ですし、この後の説明はこの知識を持っていることを前提に進めますので。
右の図、左側の『前面からの図』から解説を始めます。
グレーの四角いのがタイヤです。青い実線はタイヤの中心線、青い点線は接地面中央を通る、地面との垂直線です。
この時、青い点線と実線の作る角度が、
『キャンパー角』です。
基本的には図の方向、車体上部に向かってタイヤが閉じていく『ネガティブキャンバー』の状態にセットします。
この逆(逆ハの字型)を『ポジティブキャンバー』と呼びますが、そんなセットにすることはまずないでしょう。
キャンバー角には二つの目的があります。
- 直進安定性を高め、かつ操舵時の応答性を高める。
- 車体がロールしたときにタイヤ接地面がまっすぐ接地するようにする。
テーブルの上で10円玉を転がすと、斜めに傾いた方向に曲がっていきますよね。
あれと同じ理屈で、タイヤを傾けると内側に曲がっていこうとするのです。左右のタイヤが両方内側に曲がろうとするので、結果的に直進性が高まります。
ところがステアリングを切った時には、後に述べる
キャスター角の関係で内側のフロントタイヤのキャンバー角がポジティブ方向に変化します。
また、車体はコーナリング中には遠心力でロール方向に傾きます。あらかじめネガティブキャンバーにセットしておけば、ロールしたときにタイヤ面がまっすぐに路面に接地するようになり、より高いグリップを得ることができます。これはリアもフロントも同じです。
このような特徴のあるキャンバー角ですが、あまり強く付けるとタイヤのカドでしか接地せず、かえってグリップ感がなくなってしまいます。通常1〜2度。最大でも3度まででセッティングします。
つぎに
キングピン角ですが、これもコーナリング時のキャンバー角の制御という目的もあるのですが、それよりも
スクラブの減少の効果の方が大きいようです。
スクラブというのは、キングピン軸延長とタイヤ中心延長線の地面上での左右方向の距離のことで、これが大きいほどステアリングサーボに大きな負荷がかかります。
タイヤはスポンジ・ラバーとも研究開発の結果どんどんハイグリップになり、これまで以上にステアリングサーボにも大きな負荷がかかるようになっています。
スクラブ量を小さくすることによって、ステアリング時や、フロントタイヤからのクラッシュ時にステアリングサーボにかかる負荷を小さくすることができます。
ただし、前述したキャンバー角制御の効果により、キングピン角が強いとコーナリングの初期反応が鈍くなる傾向にあるようです。このあたりは好みとドライビングテクニックによって評価が分かれるところです。
さて、右側の『側面からの図』にうつります。
この図でもっとも目立っているのは
キャスター角です。
キャスター角にもやはり、二つの目的があります。
- リード量を拡大し、直進安定性を高める。
- ステアリングを切った時に、キャンバー角を制御する。
リード量は、フロント車軸直下とキングピン延長線上の地面上での前後方向の距離で、この量が多いとフロントタイヤは自分で駆動力のかかった方向に向こうとします。事務用イスの脚などについているキャスターと同じ理屈です。
さらにキャスター角によるキャンバー角の制御は、コーナー内輪に対してはポジティブ方向に、外輪に対してはネガティブ方向に働きます。
トレールは、ツーリングカー等の四輪駆動車には(構造上)通常つけませんが、DDカーには採用しているクルマがあります。
これはキャスター角を増やさなくても直接リード量を変更できるため、コーナリング時のキャンバー角に影響を与えずに直進安定性のみを高めることができます。基本的にはステアリングの初期反応がマイルドになります。
さて、ほとんどの車種で調整ができる
トー角です。
左右のタイヤを進行方向に対して閉じるように設定するのを「トーイン」、逆に前開きにするのを「トーアウト」といいます。
フロント | リア |
トーイン | トーアウト | トーイン | トーアウト |
直進安定。コーナー出口で姿勢が不安定。 | 直進不安定。初期回頭性よく、コーナー出口が安定する。 | 直進安定。グリップ感増大。 | 極端に不安定になるため、通常は設定しない。 |
リアにトーインが設定できないクルマ | 四輪駆動でリア・トーインが設定されているクルマ | 設定できる車種すべて | なし |
と、上の表のような特性のあるトー角ですが、進行方向に対してタイヤが斜めに付くわけですから、トーイン・トーアウトともあまり強くすると抵抗になってスピードが落ちてしまいます。通常、1〜3度のあいだでセッティングします。
なお、ここまでに上げた各パラメータは、すべて「適正な値」があり、そこから大きく逸脱すると極端にグリップが低下したり、基本とは逆の特性に移行したりします。あまり極端なセッティングはやめましょう。
アンダーステア・オーバーステア
コーナーでステアリングを切ったときに、操縦者が思ったよりも『R/Cカーがアウト側に膨らんでいく』ことを『アンダーステア』、逆に『R/Cカーがイン側に切れ込んでくる』ことを『オーバーステア』と呼び習わしています。
アンダーステアの場合はフロント側のグリップが、オーバーステアの場合はリア側のグリップが足りないと考えられます。
足りないグリップをどうやって補ってやるかは、症状によって様々な方法があります。
というのも、クルマの挙動というのは複雑なものなので、コーナー入り口ではアンダーステアだけれど出口付近ではオーバーステアになる、ということもよくあります。こういう場合は『アンダーオーバー』と呼び、特に操縦が難しく、セッティングで修正するのもやっかいです。
R/Cカーを楽しむ上で役に立つことではありませんが、うんちくの一つとして、アンダーステア・オーバーステアの本来の定義を
こちらで解説しています。
サスペンションジオメトリ
ほとんどのツーリングカーとバギーが採用するダブルウィッシュボーン式サスペンション。多くの車種が採用するにはやはりそれだけ優秀だということです。
この形式のサスペンションが採用される理由として、まず強度があります。特に横方向からの力に対して強く、クラッシュしても壊れにくいのが特徴です。
そしてもう一つ。ここで解説する、ジオメトリの自由度が高いことです。
上下のサスペンションアームの長さとその取り付け位置を変化させることで、サスペンションが動いたときに主に
アライメントの項で解説したキャンバー角が自動的に変更され、シャシーの操縦特性をさまざまにセッティングすることができます。
ここではそのダブルウィッシュボーン式サスペンションにおける、サスペンションジオメトリについて、基礎的な解説をします。
左の画像の上が、一般的なツーリングカーで使われているダブルウィッシュボーンサスペンションの模式図です。図は前輪を想定したものになっておりますが、後輪でも同じです。
一般にこの形式のサスペンションでは赤色で描かれているアッパーアームが青色のロワアームより短くなっています。
二つのサスアームの長さと角度の差によって、路面に対するタイヤの角度(キャンバー角)をコントロールしているのです。
図の下側は、サスペンションが沈み込んだ(バンプした)状態です。
アッパーアームとロワアームの描く円弧が違うため、ネガティブキャンバーが強くなっているのがわかります。このように、サスペンションが沈み込んだときにネガティブキャンバーが強くなるようにジオメトリを設定するのが普通です。
上の解説の図はわかりやすいようにシャシーが常に地面と水平になった状態でのキャンバー変化(対シャシーのキャンバー変化)で描かれていますが、実際にはシャシーは地面に対して傾きます(ロールするといいます)。
例えばコーナリングするとき、車体は外側に傾きます。この時、外側のサスペンションはバンプし、内側のサスペンションはリバウンド状態にあります。
キャンバー角は、「車体に対して何度か」というのはあまり意味がなく、「地面に対して何度か」で考えるべきものですから、常に変動するシャシーの姿勢に対して常に地面に対して適正なキャンバー角が得られるように、サスペンションジオメトリを調整するのが理想なわけです。
それがいかに難しいことかは、おわかりいただけるでしょう。
『サスペンションセッティングに正解はない』と言われる所以の一つです。
初心者の内はこんな難しいことには手を出さず、キット標準のジオメトリを信じて走らせるのがいいでしょう。